将棋のプロの直感に関わる神経基盤

The Neural Basis of Intuitive Best Next-Move Generation in Board Game Experts

science.sciencemag.org

 

将棋のプロは,盤面を見て熟考する場合もあるが,直感的に瞬時に次の一手を考えることがある。この研究では,そのような直感的な一手を指すときのプロとアマチュアの神経基盤の違いを調査している。プロ棋士は,直感的な一手を指す場合に,まず盤面を見た時にprecuneus(楔前部)が,次の手を生成するときにcaudate(尾状核)が,活動していた。つまり,the precuneus-caudate circuit が自動的に盤面を知覚し,次の一手を生成する神経基盤を担っていることが示唆された。

(もちろんプロは意識的な手の探索や,手の評価などにも優れているがこの研究では対象としていない)

 

直感的な一手に重要なことは,①盤面の知覚と②次の手の生成の2つである。
まず①盤面の知覚におけるプロの特別な神経基盤を探るために,将棋の序盤,終盤,チェスなどの盤面と,顔や風景などを見た時の脳活動を比較し,さらにプロとアマチュアで比較したところprecuneusで将棋特異的な脳活動を確認することが出来た。特に終盤の場面を見た時にはプロ特異的な活動が見られた。

 

次に②次の手の生成時の神経基盤を探った。詰将棋のような課題で直感的に一手を指した時にプロ棋士はcaudate headが特異的に活動していた。ただ,アマチュア棋士も,自分が見たことのある場面の問題だった場合にはcaudate headが活動していたようだ。つまり,プロ棋士はそのような経験がアマチュアよりも豊富なことがこのcaudate headの活動に繋がっているのかもしれない。

最後に,このprecuneusの活動とcaudate headの活動の関係を調査したところ,プロ棋士はこの二つの脳領域を同時に活動させていることがわかった。

つまり,プロ棋士は盤面知覚時にprecuneusを活動させ,一手を生成する時にはcaudate headを活動させ,両者を組み合わせて直感的な一手を生み出していることらしい。

 

このグループはこの後に簡易な将棋を用いて,訓練することでプロ棋士のような直感的な一手を指し,今回の研究のような脳活動を示すようになっていくことを明らかにしている。

www.jneurosci.org

 

他にも,将棋の攻めと守りを無意識的に選択している時の脳活動なども明らかにしている。

www.nature.com

www.youtube.com

海外学振獲得への道

面接を経て,令和2年度の海外学振に晴れて合格をすることが出来ました。

そこで,ここではすでに海外にいる研究者が海外学振に応募して,面接試験を受けるために日本へ帰って,合格発表を受け取るまでの経験談をまとめようと思います。

ポスドクが海外で研究するための助成金に関して

まず,日本人のポスドクが海外で研究をしようと思った場合に,自分が応募を考えた助成金は以下の感じです。

  1. 海外学振
  2. 上原記念科学財団
  3. 東洋紡バイオテクノロジー研究財団
  4. 学振PD(3年のうち2年間は海外滞在が認められる)
  5. 学振CRD(学振採用者が応募できる海外留学用助成金

この他にも,「海外 ポスドク 助成金」などのキーワードで調べると結構色々出てきます。
自分の場合は論文の出版が遅れて,博士号の取得時期が遅れたのですが,今年の2月から東洋紡バイオテクノロジー研究財団からの助成金で1年間留学しています。
1年間の海外留学では何も身につかないと思い,初めから次の助成金をもらうことも考えて,最初はなるべく「海外留学が初めての人だけが応募出来る資金」で行こうと思っていました(上の中だと東洋紡くらい)。

海外から助成金音申請書を提出する

さてさて,前置きが長くなりましたが,そんなこんなで2019年2月末から留学をはじめ,4~6月には学振と海外学振の締め切りが迫るので,その間は中々大変でした。

英語も全く得意じゃなく,慣れない環境の中でSocial security numberの取得,家探しから契約,銀行口座の開設,研究室内での解析の環境づくりと並行して,申請書を書かないといけなかったです。1年間の留学は次の年のお金を探しつつ,環境に慣れつつ,結果を出さないといけなくなるので本当に大変だと思います。

せっかく海外にいるので,海外の助成金にも応募しようと意気込んだ時期もありましたが,英語で申請書を書くハードルが高く(自分は英語力が低いので面接が絶対無理だと思いました),割とメンタル的にいっぱいいっぱいになっていたので諦めました。

でも出せるなら条件はすごくいいものが多かったので,トライするだけでもするのはすごく将来の役にも立つと思います。

今年は結局,海外学振,学振PD,上原記念科学財団の3つに応募しました(これが全部落ちたら,次の年からニートとか普通に考えたらやばい(笑))

海外学振は,日本にいた時の研究所にまだ所属があったのでそこから提出しましたが(むしろそうしないといけない),海外の大学などの所属からなども出せるようです。

学振PDは申請先の先生の所属先から提出します。

上原も,すでに応募経験があったので,そのサイトから応募しました(日本に所属していた時の機関から提出扱いになるのかな?)。

その中でまず8月初旬に海外学振の面接候補の連絡をもらい(9月中旬に面接),9月中旬に面接を日本で受け,9月末に学振PDの面接免除合格の連絡をいただき,10月初旬に海外学振の面接採用の連絡をいただき,11月に上原から採用内定の連絡をもらいました。

 

海外学振の面接に関して

海外学振の面接は発表4分,質疑応答6分です。これは学振DC2の時も同じでしたが,発表しなければならない情報量がDC2の時に比べて段違いに多いので大変です。ただ,基本的なポイントは同じだと思うので,注意点は以下を参照してください。

baby-steps.hatenablog.com

 

海外学振の時とDC2の時の面接で大きく違うと感じたのは

・DC2の時よりも自分のこれまでの研究は増えているので盛り込むのが大変

・海外で研究する意義も入れた方が良い
ちなみに,公式の説明資料には以下のように書いてありますが,やはり海外で研究する意義は説明した方が良いと思います。
(1) これまでの研究状況(これまでの研究の背景、問題点、研究方法、研究業績等を含む)
(2)今後の研究計画
研究目的及び研究の特色を具体的に述べてください。
① 受入先の研究室(又は研究グループ)の研究と、申請者自身が取り組む研究との関係・分担について明らかにしてください。共同研究を行う場合も同様に説明してください。
② 申請者自身のアイデアやオリジナリティーについて述べてください。
③ 研究の課題(問題点)及び解決方法について説明してください。

あと,重要なこととしては留学希望先が現在所属している研究室と同じだったので,受入研究先での研究の進捗が良いことを出来るだけアピールしました。やっぱり審査員としては,海外の留学先でちゃんと研究を進められるのか?というのは一番気になるポイントだと思いますし,日本から留学する人に比べて,その部分はとても大きなアピールポイントだと思います。

 

質疑応答は6分ですが,海外学振の場合以下のような注意事項があります。

審査員より、派遣国で使用する言語(以下、「外国語」という)で質問される場合があります。その場合は、外国語で回答してください。また、審査員より日本語で質問された場合は日本語で回答して構いませんが、審査員から別途指示があった場合には、外国語で回答してください。

ただ,同様に海外から申請をしていた同期,先輩も含めて3人の情報ですが,全て日本語で質問され,日本語で回答しました(笑)。すでに海外で研究をしている場合は,英語力のテストは必要ないという考え方かもしれません。ただ,日本から応募した人の面接の話を聞いたことが無いので,英語での質問がどのような感じなのかはわかりません。
あと,ここでもやっぱり質問で「すでに留学中だが,そこでの研究の進捗はどうなっているのか?」と聞かれました。

 

ちなみに,面接の日時指定なども出来ないし,交通費なども全て自腹です。
僕の場合は幸運にも,その時期に日本で開催される学会に招待されていたため,それも絡めて帰国したことで,なんとか自腹で交通費を払わずに済みました。

また,面接の場合は資料を15部印刷して持っていく必要があるのですが,これが海外からだと結構大変そうだと思いました。海外から日本に飛ぶ場合,万が一のことを考えて,面接の数日前に着く便などにするのが普通だと思います。印刷資料と発表資料は全く同じである必要があり,印刷資料を海外から持ってきてしまうと,面接前の数日間に修正が出来ません。個人的にこれは精神衛生上よくない気がします(笑)。

その場合はコンビニとかどこかで資料を印刷することを考えた方が良いと思います。僕の場合は日本にも所属があったので,面接の前まではそこで研究していて,発表資料の印刷もそこで出来たので良かったです。

 

脳の中の二つの意思決定のシステム(直感と熟考)

Intuition and Deliberation: TwoSystems for Strategizing in the Brain

science.sciencemag.org


ヒトにはよく考えて論理的に意思決定する場合と,感情や直感を頼りに意思決定する場合の2つの意思決定の方法があるとする,dual-process仮説がある。

このScienceの論文では論理的な思考が必要なdominance-solvable gamesと直感的に解く必要があるpure coordination games中の脳活動の違いをfMRIを使って調査した。

そして,the middle frontal gyrusとthe inferior parietal lobule, the precuneusは論理的な思考ゲームでより活動し,the insulaとthe anterior cingulate cortexは直感的なゲームでより活動していた。また,precuneusはeffortfultと相関し,insulaはeffortlessと相関した。

Dominance-solvable gamesとは推論を重ねることで答えに辿り着ける課題で,Coordination gameは推論の使用が無く直感で答えるしかない課題になります。
さらに,この論文ではNumber-gameとBox-gameの二つの条件を使って(同じ課題の1次元版と2次元版くらいの違い),課題の汎化具合も調査しています。


なんかCoordinationゲームはめちゃくちゃ単純で,相手が選んだものと同じものを選ぶという推論のしようが全くないゲームなんですけど,dominance-solvable gamesはいまいちわかりづらい気がしました。抜き打ちテストのパラドックスみたいな感じで,推論の結果正しい答えに行きつくのかがよくわからなかった・・・

抜き打ちテストのパラドックス - Wikipedia


The middle frontal gyrusとthe inferior parietal lobule, the precuneusは所謂Fronto-parietal networkとかの脳領域で,the insulaやthe anterior cingulate cortexは所謂Salience networkと呼ばれる脳領域です。

ということで,この論文で言いたいことは,Intuition and Deliberationという意思決定が別の脳内プロセスで行われていることを示唆しているわけです(同じ脳内プロセスの強弱とかじゃなく,異なる脳領域がそれぞれの意思決定を担っているということ)。
個人的には,直感と熟考の計算モデルを使って,実は同じモデルのパラメータの強度が違っているだけとか,数理モデルとしては実は一つで説明できるとかになった方が面白いんですが,全然そんな数理モデルは思い浮かばないです・・・
異なる脳領域がプロセスに関わっていると言っても,二つの課題での比較での強弱なので絶対値ではないですし,一つの意思決定の数理モデルで二つの課題の行動を説明出来,そのパラメータと脳活動の強度を調査することで,実は同じ脳内メカニズムなのだ!とか言えそうな気もするけど。

最近だと,複数の選択肢がある場合かつ時間制限などがある場合での最適な意思決定の数理モデルとかが提案されているから,直感はこれの時間制限がきつい版とか,もう少しベイズ的に,事前分布による意思決定が直感で,尤度も含めたうえでの意思決定が熟考とかはあり得そうかもしれない。

www.nature.com

ネイマールの脳活動は効率的

Efficient foot motor control by Neymar’s brain

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnhum.2014.00594/full

これは面白論文の一つで,やってることは超簡単(笑)
fMRIの中で足を動かしてる時の脳活動を計測して,ネイマールサッカーブラジル代表)と3人のプロサッカー選手,2人のプロ水泳選手,そして1人のアマチュアサッカー選手の間で比較。

プロのサッカー選手と,その他のグループで群間比較をしたところ,運動野における活動の広さはプロのサッカー選手群で小さく,活動の強度も小さかった。つまり,プロサッカー選手の方が効率的な脳活動になっているという解釈が出来るかもしれない。

そして,ネイマール1人だけはるかに効率的であったという結果。

 

長年のトレーニングによって効率的に足を動かせるようになっているという仮説が成り立つのなら,運動学習を行う前後で脳活動を見て変化を見てやれると因果関係まで少し迫れることが出来るかもしれない。

でもとりあえずネイマールの脳活動を取ったってだけですごい(笑)

高校の頃に野球漬けだとメジャーリーグでの怪我の回数が増え,試合に出る回数が減るという結果は本当??

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191109-00010001-baseballc-base
Yahooで面白そうな記事を見つけました。

小さなころ(高校のころ)に野球しかやっていなかったメジャーリーガーと,複数のスポーツをやっていたメジャーリーガーでは,野球しかしてなかったメジャーリーガーのほうが出場試合数が少なく,酷使による怪我が多かったという結果(結果の解釈には注意が必要そうです)。

 

元論文は以下。

Early Sports SpecializationIs Associated With Upper ExtremityInjuries in Throwers and Fewer GamesPlayed in Major League Baseball

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31384622


2008年~2016年の間にドラフトで1位または2位指名選手の中で,少なくともメジャーマイナー含め,試合に1回出た選手746名を対象としている。高校時代に野球以外のスポーツを一つでもやっていた選手をmulti-sport athletes,野球しかしていなかった選手をsingle-sport athletesと定義。
この選手群の間で,マイナーリーグ含めた怪我,故障者リストに入った日数,マイナーとメジャーを含めて試合に出た回数などを比較した。
746名中240名(32%)がmulti-sport athletesで506名(68%)がsingle-sport atheletesであった(この時点で結構驚き!!日本だと高校野球してる人はmulti-sportの人なんてほとんどいない気がする!)。

multi-sport athletesのほうが,試合に出た回数,メジャーの試合に出た回数が有意に多かった。また,single-athletesの方が上肢の怪我の率が有意に高かった。Single-athletesの中でも特に投手はさらに肩や肘の怪我をする人の回数が多かった。

でもTable3を見ると,そもそもsingle-sport athletesは投手の割合が52%,multi-sport athletesは投手の割合が41%と,投手の割合が違うようだ。

これって結構大事なポイントで投手は先発だった場合1週間に1回しか試合出なかったりして,野手とは試合に出る頻度が圧倒的に違う。そら上肢の怪我の回数は多くなって,試合に出た回数は少なくなるでしょ(笑)
ということで,Table 7は投手の中だけの肘と肩の怪我の割合を示していて,これが75%と56%で有意に違うとのこと。まぁここは大丈夫かなと思ったら,Table7も怪しい。

Total shoulder and elbowはsingle-sport athleteの投手だけで,Elbowを怪我した人数40人とShoulderを怪我した人数46人を足した86人,multi-sport athleteの投手は,Elbowを怪我した人数14人とShoulderを怪我した人数13人を足した27人で,この数値で統計検定してるけど,肩も肘も壊した人もいるんじゃないの??
肘と肩を別々に自分でFisher's exact testしてみたら有意じゃなかったのだが・・・
肩を怪我した人と肘を怪我した人が本当に独立ならこの結果は間違いじゃないかもしれないが,記述が無いので何も言えない・・・(あと,自分がtableの数字からMATLABのFisher's exact testで計算して出てくるp値とまぁまぁ違うのが気になった。論文にはSPSSを使ったと書いてあるけど,MATLABSPSSの違い??)


ということで,Yahooで見て面白そうだと思って,元論文を読んでみましたが,あんまり信用が出来なさそうな結果でした。
気になった点は,

①single-sport athleteはmulti-sport athleteに比べて出場試合数が有意に少ないという結果の解釈

single-sport athleteとmulti-sport athleteで試合出場の数が違うという結果は,single-sport athleteとmulti-sport athleteの全選手で統計検定した結果で,全て投手の割合で説明できそうだということ。

②multi-sport athleteはsingle-sport athleteに比べて怪我が多いという結果の解析方法

身体の部分に分けた解析では,Total shoulder adn elbowという数値でFisher's exact testを行っているが,これは単純に肩を怪我した人,肘を怪我した人を足し合わせたものになっていて,本当に重複が無いのかに関して記述が見当たらないし,定義がいまいちわからない。部位を個別に見た場合は有意ではないので(MATLABで計算してみた),重複があるのであれば結果の信頼性は低い。本当に重複が無いのであれば,上肢の怪我という風にTotalでまとめるのは僕的にはありなので良いのですが・・・

 

 

これらはあくまで僕が論文を読んでみた感想で間違いなどがあれば指摘してもらえると嬉しいです!

The Orthopaedic Journal of Sports Medicineという論文,一応impact factorが2.6くらいあるちゃんとした論文ぽいのになー
でもこれがYahooニュースになっちゃってるので,小さいころには色んなスポーツをやらせよう!!って人たちが出てくるんだろうな・・・うーん・・・

熟練者が素人の運動を観察して予測出来るようになると熟練者自身のパフォーマンスが下がる

Watching novice action degrades expertmotor performance: Causation betweenaction production and outcomeprediction of observed actions by humans
https://www.nature.com/articles/srep06989

これは題名の通りで,熟練者が素人の運動をよく見てしまうと,熟練者のパフォーマンスが下がってしまうことを明らかにした論文。
少し正確に言うと,この研究ではダーツの熟練者を対象としていて,素人がダーツを投げる動作を見て,的のどこに当たるかを予測するということを行ってもらいます。そして,このトレーニングを重ねると,熟練者は素人の投げたダーツが的のどこら辺に当たるかを良く予測できるようになっていきます。ところがそのあとに熟練者がダーツをすると,なんと熟練者のパフォーマンスが実験開始前に比べて下がってしまうことが分かったというものです。コントロールとして,ボーリングが何ピン倒れるかを予測するということをしてもダーツのパフォーマンスには影響がなかったようです。

ただ,この実験だけでは他者の動きを予測したからなのか,見たからなのかを切り分けることが出来ないということで,他者の動きを予測したからパフォーマンスが低下したことを示すために二つ目,三つ目の実験を行っています。

予測誤差には二つあると考え,一つは熟練者の予測と実験者から教えられる答えの誤差(観測誤差)。二つ目は,真ん中を狙う際のキネマティクスと動画内の初心者のキネマティクスの誤差(キネマティクス誤差)。

実験2では,答えを教えないことで一つ目の誤差を,もともと初心者が真ん中を狙っているわけではないと教示することで二つ目の誤差を無くそうとした。そうすると,熟練者は初心者の的がどこに充てるかを予測する能力は見続けても向上しなかった。そして予測通り,熟練者のパフォーマンスの低下も見られなかった。

 

実験3では2つの予測誤差のどちらがどれくらい効いているかを調査するために,2つの群を準備し,片方の誤差だけをわかるようにした。その結果,キネマティクス誤差のみを与えられた群でのみ,素人が投げたダーツが的のどこに当たるかの予測能力を向上させ,熟練者自身のパフォーマンスを低下させたという結果になった。

 

最後に,個人間で素人の的当て予想が上手くなった人ほどパフォーマンスが低下するかという相関を見たところ,有意な正の相関がみられた。

このことは,単に素人の動作を見るだけではパフォーマンスは下がらず,しかし,素人のキネマティクスを観察し予測が出来るようになると,観察者自身のモーターシステムまで変更されてしまうということを示している。つまり,予測するための脳内のシステムと,実際に動作を出力する際の脳内のシステムに共通があることが示唆される(著者らは脳活動を調査していないことから,脳内のシステムまでは言及できないと謙虚)。


ということで,下手な人の動きをじっくり見るのはやめましょう(笑)

この研究は,科学的な理由で下手になるという方向を取ったけど,裏を返せば,プロの人の動きを予測出来るようにトレーニングすれば,パフォーマンスが向上する可能性があるということです。
ただ,単に見ているだけではだめで,プロのキネマティクスからどのようなボールが飛んでいくかなどをなんとなく予測しながら(戦略的なことではなく),試合を観戦するようにしましょう!(笑)
そして,自分の経験上ですが,テニスの場合はコートの横ではなく後ろから見て,試合中の人の筋肉の感覚まで想像しながら見ると,すごく勉強になる気がしてます。横からだと,想像しづらい・・・

調律運動(リズミカルな運動)において,間欠的な視覚フィードバックを行うことで学習を促進することが出来る

Intermittent Visual Feedback Can Boost Motor Learning of Rhythmic Movements: Evidence for Error Feedback Beyond Cycles
https://www.jneurosci.org/content/32/2/653

この研究では,離散的な運動とリズミカルな運動で,運動誤差に基づいた運動学習を行う難しさが異なるのは(先行研究で示された結果),運動誤差と運動指令の間の脳内での関連付けが難しいことが原因ではないかという仮説を検証。
その結果,リズミカルな運動でも間欠的な視覚フィードバックをして運動指令と運動誤差の対応関係をわかりやすくしてやることで運動学習を促進できた。

この研究ではまず実験1で何回前までの試行が学習に聞いているかをモデルフィッティングで決定し,それは5回前までであった。そして,その影響が直前以外はマイナスの影響をもたらすことを示していた。つまり,2~5回前までの試行の情報は,学習に悪影響を及ぼしていることを示唆している。ということは,2~5回前の視覚情報を無くす間欠的な視覚フィードバックにすることで学習を促進出来る可能性があるということである。

実験2,3ではこの予測を実験的に確かめる。
その結果4回に1回,もしくは5回に1回視覚的フィードバックを得る条件で,有意に運動学習の促進が確認できた。

運動誤差に基づく学習の場合,運動誤差の情報は多い方が良いという単純なイメージとは異なる結果ですごく面白い。
ただ,なぜ数回前の試行が運動学習に悪影響を与えうるのかという理由はわからないようだ。誤差の信号を取り扱う時間スケールの問題だろうか?

この話を実際のアスリートの運動学習に照らし合わせると何が言えるだろうか・・・,Inter trial intervalが結構短くないとこの現象は起きないみたいだし,素振りのInter trial intervalとかもっと長いからな~。全然思い浮かばない(笑)