熟練者が素人の運動を観察して予測出来るようになると熟練者自身のパフォーマンスが下がる

Watching novice action degrades expertmotor performance: Causation betweenaction production and outcomeprediction of observed actions by humans
https://www.nature.com/articles/srep06989

これは題名の通りで,熟練者が素人の運動をよく見てしまうと,熟練者のパフォーマンスが下がってしまうことを明らかにした論文。
少し正確に言うと,この研究ではダーツの熟練者を対象としていて,素人がダーツを投げる動作を見て,的のどこに当たるかを予測するということを行ってもらいます。そして,このトレーニングを重ねると,熟練者は素人の投げたダーツが的のどこら辺に当たるかを良く予測できるようになっていきます。ところがそのあとに熟練者がダーツをすると,なんと熟練者のパフォーマンスが実験開始前に比べて下がってしまうことが分かったというものです。コントロールとして,ボーリングが何ピン倒れるかを予測するということをしてもダーツのパフォーマンスには影響がなかったようです。

ただ,この実験だけでは他者の動きを予測したからなのか,見たからなのかを切り分けることが出来ないということで,他者の動きを予測したからパフォーマンスが低下したことを示すために二つ目,三つ目の実験を行っています。

予測誤差には二つあると考え,一つは熟練者の予測と実験者から教えられる答えの誤差(観測誤差)。二つ目は,真ん中を狙う際のキネマティクスと動画内の初心者のキネマティクスの誤差(キネマティクス誤差)。

実験2では,答えを教えないことで一つ目の誤差を,もともと初心者が真ん中を狙っているわけではないと教示することで二つ目の誤差を無くそうとした。そうすると,熟練者は初心者の的がどこに充てるかを予測する能力は見続けても向上しなかった。そして予測通り,熟練者のパフォーマンスの低下も見られなかった。

 

実験3では2つの予測誤差のどちらがどれくらい効いているかを調査するために,2つの群を準備し,片方の誤差だけをわかるようにした。その結果,キネマティクス誤差のみを与えられた群でのみ,素人が投げたダーツが的のどこに当たるかの予測能力を向上させ,熟練者自身のパフォーマンスを低下させたという結果になった。

 

最後に,個人間で素人の的当て予想が上手くなった人ほどパフォーマンスが低下するかという相関を見たところ,有意な正の相関がみられた。

このことは,単に素人の動作を見るだけではパフォーマンスは下がらず,しかし,素人のキネマティクスを観察し予測が出来るようになると,観察者自身のモーターシステムまで変更されてしまうということを示している。つまり,予測するための脳内のシステムと,実際に動作を出力する際の脳内のシステムに共通があることが示唆される(著者らは脳活動を調査していないことから,脳内のシステムまでは言及できないと謙虚)。


ということで,下手な人の動きをじっくり見るのはやめましょう(笑)

この研究は,科学的な理由で下手になるという方向を取ったけど,裏を返せば,プロの人の動きを予測出来るようにトレーニングすれば,パフォーマンスが向上する可能性があるということです。
ただ,単に見ているだけではだめで,プロのキネマティクスからどのようなボールが飛んでいくかなどをなんとなく予測しながら(戦略的なことではなく),試合を観戦するようにしましょう!(笑)
そして,自分の経験上ですが,テニスの場合はコートの横ではなく後ろから見て,試合中の人の筋肉の感覚まで想像しながら見ると,すごく勉強になる気がしてます。横からだと,想像しづらい・・・