ボールが止まって見える!?

Ready steady slow: action preparation slowsthe subjective passage of time

https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rspb.2012.1339?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed

 

プロ野球選手が,ホームランを打った後に,ボールが止まって見えたといったという話逸話を聞いたことがある人も多いだろう。
この研究では運動準備を行うことで,時間の知覚が遅くなることを5つの実験を通して証明していく。

実験①:実験群は,白い円板が出ている時にはボタンを押しながら待ち,空の円板に変化したら,ボタンを離してスクリーンにタッチする。そして,待ち時間が前までのタスクよりも長かったか短かったかを報告させる。統制群では,白い円板が出ている時にはボタンを押さずに待ち,空の円板に変化したらボタンを押す。

その結果,実験群は統制群と比較して同じ時間白い円板が出ていたとしても,長かったと答える割合が高かった。つまり,スクリーンにタッチしようと準備していた群は待ち時間をより長く感じていた。

実験②:次に,運動ではなく一般的な認知の準備をしていてもこの時間の遅れが生じるのかを検証。この実験では白い円板の後にCかGの文字が出てきて,空の円板の後にどちらの文字が出てきたかを答え,そのあとに待ち時間が長かったかどうかを聞いた。統制群としては,CかGを答える部分を無しにしている。その結果,認知的な準備では時間知覚の遅れは生じなかった。

 

実験③:次に,本当に運動準備が時間知覚を遅くしているのであれば,運動準備の程度によって時間知覚の程度も変化するはずである。これを検証した。今度は,運動方向を二つ準備し,その方向を予測出来る場合(運動準備が出来る)と,予測できない場合場合(運動準備が出来ない)の2条件を準備し,時間知覚を比較した。すると,確かに運動準備が出来る条件(どちらの方向に手を伸ばせばよ良いかわかる条件)の方が時間知覚の遅れが大きかった。

 

実験④:次に,この時間知覚の遅れが,視覚知覚の速さが上がっているのか,単純にそのように感じただけなのかを検証した。ここでは,運動準備をすることによって視覚知覚のスピードが向上するかを検証した。白いもやもやが様々な周波数で点滅をする刺激を運動準備中に見せ,このちかちか点滅するスピードが速いか遅いかを聞いて,手を伸ばす条件と伸ばさない条件で比較した。すると,手を伸ばす条件(運動準備をする条件)で同じ周波数の刺激に対して,遅いと答える割合が多くなった。つまり,この結果は視覚知覚の速さが上がっている(物が遅く見える)ことを示唆する。

 

実験⑤:最後に,単に視覚知覚時間が遅くなっているのか,処理スピードが速くなっているのかを検証した。そのために,文字が素早く変化していく刺激の中で正しい刺激を見つける精度が向上するかを検証。文字列の中で,後半にターゲットが出てくるときに,運動準備群と統制群では有意に正答率が異なっていた。つまり,運動準備が進むほどに時間の知覚が遅くなり,ターゲットの文字をはっきりと読み取れるようになったということである。

 

この研究ではこれら5つの実験から,運動準備をすることによって確かに時間知覚が遅くなり,それは視覚知覚の時間処理のスピードを向上させていた。
つまり,プロ野球選手などが極限の集中力の中でバットを振る準備をしていることで,速いボールを知覚して捉える能力が向上しているというのは本当かもしれない。

 

こういう実験に実験を重ねて,様々な可能性を排除し,どういうメカニズムが働いているか真実を明らかにしていくスタイルはすごく格好良くて見習っていきたい。