疲れは長期間にわたって,運動学習を阻害する

Fatigue induces long-lasting detrimental changes in motor-skill learning
https://elifesciences.org/articles/40578

疲れがパフォーマンスを下げることは常識のように知られているが,疲れが運動"学習"にどのような影響を与えるのかを調査した研究。

この研究では以下の4つの実験を行っている。
実験①:Determining the effect of fatigue on temporal aspects ofmotor-skill learning
"a sequential pinch force task"という課題の学習を2日間行って,1日目のみfatigued conditionだったにも関わらず,両日とも学習に影響が出た。面白いことに,non-fatigue groupに追いつくのに,さらに2日間の学習が必要だったようだ(Figure2を見ると3日目には追い付いていそうな感じだけど)。

実験②:Determining the effects of fatigue on motor-skill learningmeasured by transfer of skill
疲れていない手の学習も阻害されることを証明。右手で学習したことは左手にも汎化することが知られている。この事実を使って,疲れた手で学習した群と,普通に学習した群で右手での学習後に左手のパフォーマンスを比較したところ,有意にパフォーマンスが異なっていた(もちろん最初は違い無し)。これは学習の転移を見ることで,学習が阻害されていたことの証明になっている(疲れた手で学習することは学習という効果以外にもconfoundが含まれる可能性があるからこれを調査している)。

 

実験③:Testing whether the effects of fatigue on learning arecentrally mediated
実験①のreplicationと,疲れによる学習の阻害が,脳を介していることを証明。運動野にrTMSを打つと,疲れによるnegative effectが幾分か軽減したとのこと。
3群の比較。群1:疲れ+TMS群,群2:疲れ+Sham群,群3:疲れ無し+Sham群,1日目の最後にTMSを打って,その影響を調査。1日目の学習曲線は群1と群2は同じで,群3だけよく学習できていた。しかし,2日目の学習曲線の傾きは群3>群1>群2という結果だった。これは,疲れによる学習のnegativeな効果をrTMSにより阻害できたことを示している。このことから,疲れによる学習の阻害は脳を介していることが示された。

 

実験④:Determining the effects of fatigue on a sequence learningtask
筋肉の疲れは,運動制御を必要としない認知課題の学習には影響を与えなかった。
今回は運動制御を必要としないsequence learningを実施して,そちらの課題の学習には影響しなかったことを実証。

基本的に課題はつまむ力を制御するような課題で,疲れは「最大に出せるつまむ力が元気な時の60%くらいまでになる」という定義で,それまでつまむ運動を繰り返させるみたい。

ちなみにもう一つの課題として,1日目に疲れさせるけど,課題の学習は行わず,2日目に学習を行わせると,learning curveは疲れ群と統制群で同じになるようだ。ちゃんと休めばいいってことかな。

ということで,疲れた状態で運動学習することはお勧めできないようです。部活なんかだと,疲れたところからが本番だ!!ということが多いですが,運動学習の観点からは良くないようです。
ただ,疲れて頭が働かなくなった状態でどれだけパフォーマンスを発揮できるか?という部分は,実際の試合ではとても重要な要素になるかと思います。自分的には,そのような訓練は必要になるんじゃないかなーと思います。
またそういう観点からの研究とかが出てくると面白いんじゃないかなと思いました。