瞬時のoffenceとdiffenceの判断に関する神経メカニズム

Neural encoding of opposing strategy values in anterior and posterior cingulate cortex

www.nature.com

 

ヒトは瞬時に攻めるか,守るかという選択を行っている。

この研究では,熟考することなく瞬時の判断において攻めるのか守るのかを判断してるのはどこの脳領域なのかということを,将棋を題材にして調査している。
その結果,the rostral anterior cingulate cortex(吻側前帯状皮質) and the posterior cingulate cortex(後部帯状皮質)と呼ばれる脳領域が攻めと守りの戦略価値をそれぞれ表現していることが明らかになった。そしてthe dorsolateral prefrontal cortex(背外側前頭前野)がその二つ価値を比較していることも明らかとなった。

将棋は,チェスに比べて攻めと守りがはっきりしているのが今回の研究の対象となった理由だそうです(笑)。そして,見る人が見れば攻めなのか守りなのかは明らかで,この論文内では言及を避けています(ちょっと気になる・・・)。

実験課題としては,実験条件と統制条件に分かれ,実験条件では盤面を4秒見せた後に,2秒で攻めか守りの2択を行います。統制条件では,攻めか守りを指示された後に盤面を4秒間見せて,2秒間で具体的な手を4つのなかから選択します。
ちなみに実験条件において攻めと守りの正答率は有意に攻めの方が高かったようです(笑)。これはアマチュア将棋棋士が攻めを好んでいるからだと主張しています(結構この部分に関しても細かい解析をしてますがここではスキップ)。
正答率は,その盤面においてartificial intelligence (AI)によって計算された評価が高い方(攻めか守り)が正解と定義しています(正解の一手が攻めということと,攻めを選んだことは必ずしも一致しない気もするけど・・・)。

実験条件と統制条件でfMRIの脳活動を比較すると,以下のようなことが分かったようです。実験条件>統制条件の脳活動だけを見てるけど,逆の解釈も気になるなー(table1には載っていてpremotorやDLPFCなどが実験条件で活動が弱い),と思ったら統制>実験の脳活動は攻めの価値と守りの価値との相関は見られなかったとResultsの最後にちらっとのってた。

  1. 吻側前帯状皮質は守りを選択したときのdeactivationが攻めに比べて弱い
  2. 後部帯状皮質は攻めを選択したときに守りを選択したときより活動する
  3. 背外側前頭前野は攻めでも守りでも活動する
  4. 背外側側頭皮質と海馬は,攻守には関係なく間違えた時に活動する

次に,攻めの価値と守りの価値をAIによって計算させ,その価値に伴って活動する脳領域を探った(次の一手の中で,AIによって価値の高い一手を上から3つ攻めと守りでそれぞれで選び,その価値の平均値で攻めと守りの価値を計算)。

そうすると,守りの価値は吻側前帯状皮質との相関が高く,攻めの価値は後部帯状皮質との相関が高かった。また,背外側前頭前野と背外側側頭皮質と海馬は選んだ価値と選ばなかった価値の差分との相関が高かった。また,戦略の選択と戦略の価値の相関は高いため(戦略の価値が高かった方が選択されやすい),どちらの影響なのかを明らかにするために,攻めも守りも中くらいの価値の試行を取ってきて,攻めを選択した場合と守りを選択した場合でそれぞれの脳活動の違いを調査したところ,有意な差は確認できなかった。つまり,上記に示した脳活動は戦略の選択ではなく,戦略の価値を表現していることが明らかになった。

つまり,単純に考えると吻側前帯状皮質で守りの価値を表現し,後部帯状皮質で攻めの価値を表現し,その差分がDLPFCで表現されていることで一手の選択に繋がっていると考えられる。