直感はどのように発達するのか?

Developing Intuition: Neural Correlates of Cognitive-SkillLearning in Caudate Nucleus

www.jneurosci.org

 

2011年のScienceの論文で,プロ棋士は直感的な一手を指す時にcaudate headの活動があり,アマチュア棋士では無かったという結果を示していた。
また,このような直感的な一手は,長い訓練を積むことで発達すると考えられてきたが,直感的な一手を指せるようになるに伴ってこのcaudate headの活動も徐々にみられるようになるのだろうか?

この論文では,初心者に将棋よりも簡単なボードゲーム(5x5のミニ将棋)を15週間訓練させることで,直感的な一手を指すことが出来るようになり,その一手を指す時にcaudate headの活動が見られるようになったとのこと。更に,このcaudate headの活動が強い人ほどperformanceが高かったようだ。

実験では,20人の将棋初心者(本当に初心者)が5x5のミニ将棋を15週間訓練し(主にコンピュータとの対戦),その前後での脳活動をfMRIで計測。15週のうちの2,3週目に最初の計測を,14,15週目に後の計測をしている。fMRIの中での課題はScienceの論文のものとほぼ同じ。

ちなみに,前に投稿したのも含めて将棋論文では常にチェスとの違いを詳しく説明している。多分reviewerから何で将棋なのかっていつも聞かれてきたんだろうな(笑)。あと,この訓練をちゃんとしてもらうために,1か月につき2万円の謝金と,実験の最後に行われるトーナメントでベスト5に入れば10万円,10位までに入れば5万円を報酬としてるのはすごい(笑)。ぜひ参加したかった・・・

その結果,まず最初の測定時と最後の測定時で直感的な一手の正答率は全被験者で向上した(各被験者のトレーニング時間は37時間から107時間と幅は有り)。ただ,工場率がトレーニング時間やIQなどとは相関していなかったらしい・・・

そして,予想通り最初の測定時にはcaudate headの活動はほとんどなかったが,最後の測定時にはcaudate headの活動は高くなっていた。更にこの最後の測定時のcaudate headの活動は成績の向上率と有意に相関していた。caudate headのvolumeに変化があったかを調査したが,volumeには変化がなかったようだ。ただ,最初の計測時のcaudate headのvolumeは有意に最初の正答率と相関していた。

 

 

ということで,初心者でも訓練することでcaudate headを使った直感的な一手を生み出すことが出来るようになるようです。

気になるのは,Scienceの論文ではcaudate headの活動が高い人ほど正答率も高かったが,同じ被験者のトライアル間での違いもあるのだろうか?例えば,ある試行では直感的に打ててcaudate headが活動したり,ある試行では直感的に打てずcaudate headが活動しなかったり。
後は,caudate headはどのような計算を行っているのか?これは直感に関する計算モデルが無いので難しい問題かと思う(実はあるかもしれないけど)。どうやったら直感を数式で表すことが出来るだろう?

なんとなくだけど,ベイズ的に考えたら,経験によって作られた事前分布に基づいた意思決定が直感みたいなものかなという気はする。2009年のScienceの論文で熟考と直感による意思決定を比較した研究ではcaudate headの活動は無かったが,あれはその課題に関する事前分布がまだ形成されていない状態での意思決定だから活動しなかったのかな?